2.SF緑化システムとは

2.1.高次団粒SF緑化システムの特徴

崩壊や開発などで山肌が露出しているところには植物が育ちにくい。これは,表土が削られ,無機質な貧栄養の土が剥き出しになっているからである。表土には植物の生長に必要な養分と水分が保たれている。高次団粒SF緑化システムは,表土を再生しようとする緑化工法であり,表土の再生に当たっては,その土壌物理化学性を再現することをねらいとした。

以下に高次団粒SF緑化システムの内、基本工法であるSF緑化工法の特徴を記す。

 

1)団粒構造を有する生育基盤

  高次団粒SF緑化システムの第1の特徴は,高次団粒吹付技術により,団粒構造を有する生育基盤を斜面に造成することである。

  団粒構造とは,畑地やよく発達した森林の表層土によく見られる土壌構造である。粘土粒子とシルト粒子などが有機物によって結びつけられた集合体であり,その集合体がさらに結合し,2次,3次と高次の団粒構造に発達する。このような団粒構造の土壌は,水もちと水はけという機能を兼ね備えている。

  団粒内の小さな間隙には毛管力により水分がとどまり,一方,団粒間の大きな間隙では透水と通気が行われている。このような性質は,水分と空気を必要とする植物の根にとって好ましい状態であるばかりでなく,多様な微生物相をつくり出している。酸化・還元状態が同時に存在することにより,好気性微生物と嫌気性微生物が棲み分けをすることができるのである。

  団粒構造の形成された基盤には大きな間隙ができているため,降雨水を地下に浸透させることができる。ふつうの裸地では,降雨があると,表面の土塊は雨滴衝撃により破壊され,分散した土粒子が土のすき間を埋めてしまう。こうして表面近くにクラストが形成され,これが表面流出を起こし,土壌侵食の引き金となる。しかし,しっかりとした団粒構造ができていれば,土粒子が分散せず,高い浸透能が維持されるのである。これが,SF緑化工法の基盤が耐食性を持ち,流れないといわれるゆえんである。

  さて,このような耐食性に優れた基盤を実現したことにより,土の表面にもすき間をつくることができるようになった。つまり,雨滴衝撃を緩和するために植物を密生させる必要がないのである。従来工法は侵食防止効果を植生のみに頼っているため,外来草本類やハギ類を密生させなければならない。この表面のすき間が,周辺から進入しようとする植物を受け入れる場所となり,これが植物群落の遷移のきっかけとなるのである。

 

2)粘土を多めに含む客土材

  高次団粒SF緑化システムの第2の特徴は,粘土を多めに含む土壌を客土材として使用していることである。

粘土は結晶性粘土鉱物と非晶質粘土鉱物に大別されるが,いずれもマイナスやプラスの電気をもっていることが知られている。ところで,植物に必要な養分は,土中にイオンとして存在するので,粘土はこれらを電気的に保持することができるのである。ちなみに,砂やシルトは電気をもっていないので,養分を流下させてしまう。土中の粘土は養分のタンクであり,蓄積量が増すにつれ,植物群落は森林へと発達していくのだといえる。

 

2.2.SF緑化システムの概要

  SF緑化システムは,高次団粒構造をもつ基盤を造成するSF緑化工法を基本とし,次の4工法からなる。

高次団粒工(SF緑化工法)

有機物や粘土を多めに含む埴壌土を用いて,植物の生育に適した高次の団粒構造をもつ自然の表土に近い生育基盤を造成する工法。

接着繊維工(TG緑化工法)

SF緑化工法による生育基盤に,粘着性の植物繊維を混入した工法。植物の根系が十分に発達するまでの間,基盤をさらに補強する効果が期待できる。

吹付敷藁工(MF緑化工法)

SF緑化工法またはTG緑化工法による生育基盤の表面に,藁マルチを吹き付ける工法。表土の最上部に位置する落葉層(L層)が,土壌水分の蒸発や地温の上昇を抑制するなど,植物の生育環境の変化を緩和する効果に着目し,従来から植生工や造園工で用いられてきた藁むしろによる養生工を吹付け施工できるようにしたものである。

生態舗装工(BF緑化工法)

生チップを骨材とし、有機物や粘土を多めに含む埴壌土による団粒構造を有し,植物が成立できるた透水性舗装を吹付により造成する工法。

 

SF緑化工法は、SF緑化システムの基本であり,TG緑化工法は最も多くの実績を持つ工法である。両工法合わせて通常の自然回復において、全国20000ヶ所、2000万㎡以上の実績がある。

また,これらの工法は、降雨による耐侵食性に優れていることから、ダム湛水面においても施工を行ってきたが、流木の衝撃や、大きな波浪や流速に対する耐侵食性に問題が残されていた。

また、近年は、自然な斜面の造成や、現場発生木材の有効利用(リサイクル)といった要望が年々増してきたことから、従来のSF緑化工法・TG緑化工法とは別に、現場発生木材を有効利用しながら、自然な斜面の回復が図れるBF緑化工法を開発した。

2.3.高次団粒工(SF緑化工法)

SF緑化工法は,有機物や粘土を含む埴壌土を用いて,高次の団粒構造をもつ生育基盤を造成する工法である。自然の表土に近い土壌構造をもつため,草本類に限らず,木本類の播種からの導入,植栽や草花の導入にも適している。SF緑化工法は,高次団粒SF緑化システムの基本となる工法でる。

本工法は,図-12に示すように,泥状基材混合供給システム・団粒剤供給システムの2系統から構成されており,汎用高次団粒吹付機「ソイルシーダー」を使用する。

泥状基材混合供給システムで使用する材料は,①配合種子,②客土材,③肥料・養生材,④安定剤,団粒剤供給システムで使用する材料は,⑤団粒剤であり,いずれのシステムでも清水を注入して攪拌混合する。これを別々に搬送し,吐出時にミキシングノズルで,吸引された空気と攪拌し,団粒反応させながら吹き付ける(図-3)。

使用材料は,吹付機のタンクに合わせて,あらかじめパックしてあり,施工手順もすべてシステム化されている。本工法の特長である団粒反応を確実に起こし,耐侵食性に優れた基盤を造成するためには,材料の組み合わせのバランスを崩さないことが極めて重要である。

使用材料の概要

配合種子「デザインシード」・「オーダーシード」は,緑化目標に応じて,吹付け単位ごとに袋詰めしたものである。

客土材「ジェットソイル」は,保水力・保肥力のある粘土を多めに含んだ埴壌土に有機堆肥を混合したもので,吹付機のタンクに合わせて1250㍑の計量コンテナーバッグにパックしてある。全国的に統一管理された各地プラントで製造されている。

肥料・養生材「ジェットシードD」は,肥効を持続させるために植物性繊維に肥料を付着させたものである。肥料は,P・K主体の化成肥料と熔性リン肥,さらにアルギン酸ソーダ系の土壌活性剤を用いている。

安定剤「マグゾールD」は,天然植物性油脂の誘導体から構成されており,団粒反応を促進し,団粒構造を保持する。

団粒剤「ソイルフロック」は,アニオン系線状有機高分子からなり,一次土粒子とイオン結合する性質のものである。

 

図-1 SF緑化工法の構成

 

図-2 SF緑化工法の施工概要

 

 

図-3 生育基盤造成のシステム